「結婚したので、旧姓から新しい姓の印鑑に作り直したい」
「おじいちゃんの形見の印鑑を受け継ぎたい」

お気に入りの靴や時計を修理するような感覚で、印鑑も彫り直して繰り返し使いたい、というニーズは少なくありません。立派な象牙や珍しい水晶などを使った印鑑であれば、よりその気持ちは強くなるでしょう。
しかし、印鑑を彫り直すことで「身を削るような気がして怖い」「縁起が悪いのでは」…といったネットの書き込みも見られます。彫り直しは本当によくないのでしょうか?
この記事は、印鑑の彫り直しについて詳しく紹介します。彫り直しの注意点や値段などについても掲載していますので、最後までご覧ください。
印鑑の彫り直しは身を削る?縁起が悪くなるのは本当?
「印鑑の彫り直しは身を削るようで縁起が悪そう」という意見がありますが、それは誤りです。印鑑は重要書類などに押すことで「本人が間違いなく確認した」ことを証明できるアイテムです。
自分の分身のような存在だからこそ、印面に彫られた名前を作り替える行為が「自分の身を削る」「縁起が悪い」と感じるのでしょう。

しかし、彫り直しをしたから縁起が悪くなる、ということはありません。
実は彫り直しの文化は昔からあり、専門のはんこ屋さんが、サービスの一環としておこなってきました。
最近はものを大切にするSDGsの風潮が世の中に浸透しており、「印鑑を彫り直したい」というニーズが高まっているのかもしれませんね。
それでも「不安を感じる」という方は、神社などでお清めを済ませてから彫り直すといいでしょう。
印鑑に限らず、思い入れがあるものや、新しく使い始めるものなどを清祓(きよはら)いするのは、慣習として古くからあります。これで安心して彫り直しに臨むことができます。
印鑑の彫り直しをするときに注意すべき4つのポイント

印鑑の彫り直しは、専門のはんこ屋さんなどで受けてくれます(対応していないお店もあるので要問い合わせ)。ただし、いくつかの注意点があります。印鑑を持ち込む前に、以下について確認しておくと安心です。
①実印や銀行印として登録しているかを確認する
②彫り直しをすると印鑑の長さが短くなる
③彫り直す前の印面が無くなる
④印鑑の状態によっては、彫り直しができない場合もある
①実印や銀行印として登録しているかを確認する
「新しい姓で彫り直したい」「親の形見のものを使いたい」という印鑑は、すでに実印や銀行印として登録されている可能性があります。
実印も銀行印も、自分の意思を示すためのアイテムです。印鑑登録できる実印は1人1個と法律で決められています。もし登録されているなら、改印の手続きをしましょう。
実印なら、印鑑登録をしている市区町村役場を訪ねて登録印を廃止します。彫り直した印鑑を実印として使うなら、改めて印鑑登録の申請をします。この手続きには、廃止する印鑑登録証や本人確認書類(運転免許証や健康保険証など)が必要です。銀行印の場合は、届出をしている金融機関に連絡して利用停止の手続きをおこないましょう。
②彫り直しをすると印鑑の長さが短くなる
印鑑を彫り直す際は、彫刻面を専用の機械などで削る必要があります。そのため、彫り直し前のものと比べて本体の長さが少し短くなります。
削る長さは0.5mm程度ですが、もし手彫りによる印鑑だと印刀(専用の刃物)が深くまで入っていることがあるため、1mm~2mm以上削る場合もあります。
③彫り直す前の印面が無くなる
当然ですが、印鑑を彫り直すということはそれまでの彫刻面が無くなるということです。形見の印影を思い出に残したいなら、あらかじめ捺印して印影を取っておきましょう。
④印鑑の状態によっては、彫り直しができない場合もある
傷みが激しいものや、ひび割れがあるものは耐久性が低く、彫り直すのが困難です。また薩摩本柘(さつまほんつげ)などの木製の印鑑は、朱肉が染み込んだら劣化しやすくなります。材質によっては彫り直し不可というお店もあるので、事前に確認が必要です。
また、違う名前に彫り直すのではなく、「印面が摩耗したから、再度自分の名前を彫ってほしい」というニーズもあるでしょう。
はんこ屋さんによっては、その店で購入した印鑑の保証サービスとして、彫り直し(修理)に応じてくれるお店があります。この場合、注文時の書体で彫り直しますが、まったく同じ印面(同型印)を彫ることはできません。印鑑の複製は刑法第167条の「私印偽造及び不正使用等罪」に該当するからです。
・私印偽造及び不正使用等罪
第百六十七条 行使の目的で、他人の印章又は署名を偽造した者は、三年以下の懲役に処する。
2 他人の印章若しくは署名を不正に使用し、又は偽造した印章若しくは署名を使用した者も、前項と同様とする。
もしも同じ印鑑が作れるとしたら、契約書の偽造が簡単にできてしまいます。
自分の名前を再度彫り直すとき、まったく同じ印面にはならないことを覚えておきましょう。
印鑑の彫り直しができるのは象牙だけ?水晶や翡翠の材質もOK?
印鑑と一口に言っても、さまざまな材質があります。一般的によく知られているのが象牙や黒水牛です。
他にも薩摩本柘(さつまほんつげ)など天然木を使用した木材系や、アクリル樹脂系、金属系、水晶や翡翠などの石系があります。

前項④にも述べたとおり、材質によって彫り直しに未対応のはんこ屋さんもあります。特に石系や金属系は、特殊な製法で彫る必要があるので、対象外とするお店は少なくありません。また、対応している材質でも、印鑑の状態が良くなければ彫り直しを断わられる場合もあります。象牙など頑丈な材質のものでも、ひびが入っていたり、中が腐食していたり、となっていたら再彫刻は難しいので注意してください。
印鑑を彫り直すときの値段の相場は
印鑑の彫り直しの料金は、お店によってさまざまです。
例えば、彫り直しのニーズが高い象牙の場合、5,000円~30,000円と料金差に開きがあります。これは通常の印鑑の販売価格をベースに、彫り直しの料金が決められているからです。また、彫刻する文字数(フルネーム・名前)や、印鑑のサイズ、彫刻方法によっても彫り直し代が変わってきます。
彫り直しは「新品を買い直すよりも安く済む」と考える人もいると思いますが、実はかえって割高になることもあります。印面を削るなどの作業が必要だからです。そのため、木材系など比較的安価な印鑑だと新たに購入した方がお得という場合も。
「思い入れがあるので、どうしても彫り直してほしい」ということでなければ、新規で印鑑を買う選択肢も頭に入れておくといいでしょう。
印鑑を彫り直しても縁起が悪くなるわけではない

ここまで、印鑑の彫り直しについて詳しく紹介しました。
印鑑の表面を削って彫り直すことは珍しいことではありません。「身を削るようで縁起が悪い」と思う人もいますが、彫り直しで縁起が悪くなることはないのでご安心ください。
彫り直しは印面を削るため、印鑑の長さが0.5mm~2mmほど短くなります。
また、印鑑の材質によっては対応していない場合もあるので、まずは最寄りのはんこ屋さんに相談しては。
もしも、ひび割れなどが原因で彫り直すのが難しいなら、新規で印鑑を購入しましょう。
印鑑の通販サイト「印鑑の匠ドットコム」では、実印用など最適な印鑑を豊富に取りそろえています。
印鑑には10年間の安心保証が付いているので、通常使用で印面が摩耗した場合も彫り直してくれます。
ぜひお気に入りの一本を探してみてください。
※水晶印、及びゴム印(サンビー、シャチハタ、シャイニー、ブラザー等含む)は10年保証の対象外です。


