
身内の人が亡くなった場合、速やかに相続手続きをしなければなりません。
相続人や相続財産の確定、遺産分割協議、相続財産の名義変更などさまざまな手続きがあります。それらには多くの書類が必要ですが、印鑑登録証明書(印鑑証明書)もその中に含まれるのでしょうか?
結論から言うと、印鑑証明書は相続手続きに必要です。遺産分割協議書の作成時や、不動産の相続登記をおこなうときなど、多くの場面で提出が求められます。
この記事では、相続手続きに印鑑証明書が必要なケースや、必要枚数、印鑑証明書の発行方法などについて紹介します。
相続に印鑑証明書が必要なケースは主に7つ
そもそも、なぜ相続手続きの書類に印鑑証明書が要るのでしょうか。それは「本人が実印を押して同意した」ことを証明するために必要だからです。
実印とは役所に印鑑登録したハンコのことです。あらかじめ実印の印影(印鑑といいます)を登録し、印鑑証明書を発行することで、契約書などに押した実印が「自分本人のもので間違いない」ことを証明できます。
相続の手続きに実印を使うのは、自分の意思を明確に表すためです。実印を押すと、「この書類に書かれてある内容を承認します」と、自分の意思をはっきりと示すことができ、文書として残ります。その実印が、押した本人のもので間違いないかを確認する際に印鑑証明書が必要なのです。
相続手続きに印鑑証明書が必要なケースは、主に次の7点です。
1、遺産分割協議書を作成する場合
2、有価証券(株式や投資信託)の名義を変更する場合
3、預貯金の払い戻しをする場合
4、不動産の相続登記をおこなう場合
5、相続税の申告をおこなう場合
6、生命保険金や死亡保険金を受け取る場合
7、相続分の譲渡、放棄の手続きをする場合
順番に見ていきましょう。
1、遺産分割協議書を作成する場合
「遺産分割協議書」とは、相続人全員(2人以上)がどの遺産を誰がどのように承継するかを決め、その合意内容を記録したものです。遺言書が残されておらず、複数人の相続人がいる場合に作成します。この遺産分割協議書には決められたフォーマットがありませんが、相続人の同意のもとで作られたことを証明するために全員分の実印を用いて署名捺印します。

その際、押印された印影が本人のものであることを証明するために、各々の印鑑証明書を添付します。
2、有価証券(株式や投資信託)の名義を変更する場合
最近では、株式や投資信託などの有価証券が相続財産となるケースが増えています。その際におこなう名義変更には、複数の相続人がいて遺産分割協議書を作成した場合、印鑑証明書が必要です。遺言書がある、または相続人が1人の場合は相続財産を引き継ぐ方の印鑑証明書を提出します。
3、預貯金の払い戻しをする場合
金融機関にある被相続人の預貯金を払い戻しする場合、印鑑証明書が必要になります。
※金融機関によって必要なケースが異なるため、窓口で確認しましょう。
4、不動産の相続登記をおこなう場合
不動産を相続すると、亡くなった人から相続人へ名義を変更するための相続登記をおこないます。この相続登記をおこなう際、不動産を引き継ぐ相続人だけでなく、相続人全員の印鑑証明書が必要です。
ただし、相続人が1人である、遺言書がある、調停調書・審判書があるという場合は、例外的に印鑑証明書が不要です。
5、相続税の申告をおこなう場合
遺産分割協議をおこなった場合は、相続税の申告書に遺産分割協議書と全員分の印鑑証明書の添付が必要です。遺言書がある、または相続人が1人の場合、印鑑証明書は要りません。
6、生命保険金や死亡保険金を受け取る場合
生命保険金や、死亡保険金を受け取る際は、本人確認のため、受取人の印鑑証明書の提出が求められます。
7、相続分譲渡、相続分放棄の手続きをする場合
他の相続人や第三者に、自身の持っている相続分を譲渡、放棄する場合、印鑑証明書が必要になるケースがあります。相続分譲渡証書や相続分放棄書に実印を捺印し、印鑑証明書を添付します。家庭裁判所において相続放棄をする場合は、印鑑証明書は不要です。
相続に使う印鑑証明書の枚数はシーンによって異なる

先ほど相続手続きに必要な印鑑証明書について述べましたが、1人当たりの印鑑証明書の必要枚数は相続状況によって変わります。
目安として、相続手続き全体では印鑑証明書を3~4通用意しておくといいでしょう。
ただし、手続きが終了した後、印鑑証明書が還付(返却)されることも多々あり、他の相続手続きの提出書類として流用できます。印鑑証明書の発行手数料が節約できるメリットもあるので、原本の還付請求はできるだけおこなうようにしましょう。
また、誰の印鑑証明書が必要になるかは、手続きによって異なります。
印鑑証明書そのものには有効期限について記載されていませんが、相続手続きの内容によっては「発行から○ヶ月以内」など期限が決められていることもあります。
1、遺産分割協議書を作成する場合…相続人全員の印鑑証明書が必要(期限なし)
2、有価証券(株式や投資信託)の名義を変更する場合…相続人全員の印鑑証明書が必要(発行から3~6ヶ月以内)
3、預貯金の払い戻しをする場合:(発行から3~6ヶ月以内)
・遺言書がある、または相続人が1人の場合…預金を相続する人の印鑑証明書が必要
・遺産分割協議書がある場合…相続人全員の印鑑証明書が必要
・家庭裁判所による調停調書、審判書がある場合…預金を相続する人の印鑑証明書が必要
4、不動産の相続登記をおこなう場合…相続人全員の印鑑証明書が必要(発行から3~6ヶ月以内)
5、相続税の申告をおこなう場合…相続人全員の印鑑証明書が必要(期限なし)
6、生命保険金や死亡保険金を受け取る場合…相続する人の印鑑証明書が必要(発行から3~6ヶ月以内)
7、相続分譲渡、相続分放棄の手続きをする場合…手続きをする人の印鑑証明書が必要(期限なし)
※上記はあくまでも目安です。利用する金融機関などによって期限の範囲が異なるので、事前に問い合わせるとスムーズに準備できます。
相続手続き用の印鑑証明書の取得はコンビニがおすすめ
相続手続きに必要な印鑑証明書を取得するには、主に次の4つの方法があります。
・役所の窓口で申請する。
・役所のオンラインサービスで申請する。
・市民サービスセンターで申請する。
・コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどに備え付けられた発行機から取得する。
役所の窓口で申請する場合、手数料は1通300円~350円が一般的です。なお、本人から委任された代理人の方も請求できます。代理人も申請書への記入が必要なので、証明書の対象となる方の住所・氏名・生年月日を事前に確認しましょう。
「急ぎで印鑑証明書が欲しい」という場合はコンビニでの交付が便利です。これは、市区町村の発行する証明書がコンビニのマルチコピー機(キオスク端末)から取得できるサービスです。マイナンバーカード(または住民基本台帳カード)、またはスマホ用電子証明書が搭載されたスマートフォンを利用します。
※コンビニ交付に対応していない自治体もあります。

役所のように申請書に記入する手間がなく、土日祝日も利用できます。また、コンビニ交付に対応している自治体の多くが手数料を一律100円ほど引き下げているので、お得に印鑑証明書を取得できます。
まだ自分の印鑑証明がないという方は、印鑑登録を済ませる必要があります。手続きは住民登録のある市区町村役場でおこなうことができます(15歳以上)。その際は登録する実印用の印鑑をお忘れなく。
相続人に印鑑証明書を渡したくないときの対処法
ここまで、相続手続きに必要な印鑑証明書について紹介しました。
相続手続きには、印鑑証明書が深く関わっていることがご理解できたと思います。
しかし相続手続きは日常的におこなうものではないので、いざその立場に立つと戸惑う方は少なくないかもしれません。

そういうとき、相続人の1人から「こちらで手続きをしておくから実印と印鑑証明書を預けてほしい」と言われると、つい甘えてしまいがちです。
しかし、それは危険なことです。実印と印鑑証明書を渡すと、不利な内容の遺産分割協議書を作成されてしまうなど、相続トラブルに発展するリスクがあります。
本来、実印は書類を確認した上で本人自身が押すものであり、身内だからといって預けるのは避けるべきです。
そこで対策として、司法書士などの専門家に相続手続きを依頼して、実印と印鑑証明書を渡すほうが安全です。こうすることで相続トラブルを未然に防いでいきましょう。
自分の実印をまだ持っていない、という方は印鑑専門店での作成をおすすめします。
印鑑の匠では実印用に最適な印鑑を種類豊富に取り揃えていますので、ぜひ自分だけの実印を探してみてください。

