印泥とは

書画や絵手紙を趣味にしている人にとって、落款印は定番のアイテムでしょう。
自分の名前や雅号が彫ってあるハンコで、書画や絵手紙の仕上げに押すことで作品が完成します。

その落款印によく使われているのが「印泥(いんでい)」。印泥に落款印を押し当てて紙に押印すると、印影をくっきりと残すことができます。味わい深い朱色が、作品をさらに引き立ててくれます。

ところで、印泥とはいったい何なのでしょうか?見た目は朱肉のような形状ですが、お餅のようにぽってりとした朱肉に対して、印泥はドロッとしているように見えます。

そこでこの記事は、印泥の基本的な知識や、使い方、お手入れ方法などを詳しく紹介します。

印泥と朱肉の違いとは何?

まずは、印泥と朱肉の違いについて解説します。

朱肉は、大きく「スポンジ朱肉」と「練り朱肉」に分けられます。
「スポンジ朱肉」は、朱液をパッドに染み込ませたスポンジタイプのもので、契約書などの書類に押すときに使用します。日常的に使われている朱肉と言えば、このスポンジ朱肉です。

一方「練り朱肉」は、朱液に「パンヤ」や「もぐさ」などの繊維質や和紙を混ぜて練り上げたものです。
印影が長期間にわたって劣化せず、厚みがあって鮮明な印影を得ることができます。
書画に落款印を押すときや、半永久的な保存が必要な書類にも効果的です。

この練り朱肉は日本で生まれたものですが、実はその基となっているのが印泥です。

印泥は中国が発祥で、繊維質の「もぐさ」や鮮やかな朱色の鉱物「辰砂(しんしゃ)」などを、特殊な製法で精製した油で混ぜ合わせて作られています。練り朱肉よりも粘りがあり、泥のようなペースト状になっているため「印泥」の名で呼ばれています。
なお印泥に含まれている辰砂は、硫化水銀を原料としています。印泥を使う際は取り扱いにご注意ください。

押印後、乾くまでに時間がかかりますが、印影のきめが細かく深みのある仕上がりが得られるのが特長です。書画をたしなむ方は、落款印のひと押しに使ってみたいですね。

印泥の使い方、4つの手順を解説

新品の印泥は、平らで固まった状態になっています。落款印などに使う場合は、使用前に練り混ぜて柔らかくしておくのがお勧めです。こうすることで印泥がしっかり印面に付着し、押印がしやすくなります。
印泥の使用手順は下記の通りです。

1、印泥を練り混ぜる
付属しているヘラを使って印泥を練り混ぜます。ポイントは、容器の底から持ち上げるようにして全体を混ぜること。印泥に含まれている辰砂と油分は分離しやすいので、しっかりと攪拌させましょう。

2、印泥をダンゴ状にする
十分に印泥を練り混ぜたら、少しずつ丸くダンゴ状に整えます。丸い形状にすることで、印泥を印面に万遍なくつけることができます。

3、印面に印泥を付ける


印面で印泥を軽く叩くようにして、万遍なく付けていきます。印面の向きを少しずつ変えながらおこなうと印面全体に付きやすくなります。印泥を動かす、印面を動かす、どちらのやり方でも構いません。

このとき、ぎゅっと印泥を押し付けないようにします。印泥は朱肉よりも柔らかいため、押し付けると印面の奥まで印泥が入り込んでしまい、押印の際、印影の細い線がつぶれてしまうからです。
印面への付き具合を確認しながら慎重に作業しましょう。

4、押印する
印泥を印面に付けたら、印褥台(いんじょくだい)と印矩(いんく)を使って紙に押します。
紙の下に印褥台を敷き、印を押したい位置に印矩を置きます。水平・垂直になっていることを確認して、印矩の直角部分に合わせて落款印を押します。押印できたら、印矩をゆっくりと取りのぞき、印影を乾かします。これで完成です。

印泥を片づけるときは、もう一度全体を練り混ぜてからフタをし、付属の木箱などに入れて保管します。
使い終えた落款印は、ティッシュなどで印面を拭き取りましょう。

印泥が固まったらどうすればいい?最適なお手入れ方法とは

印泥は気温の変化や、湿気や乾燥を嫌います。そのため定期的なお手入れが必要です。

例えば、印泥をしばらく使わずに放置していると、固まったり油分が分離したりといったことが起こります。表面が固くなると印泥の付きが悪くなり、落款印を鮮明に押すことができません。
また、分離した状態で印泥を使うと、押印の際に紙の裏側から油が染み出してしまう恐れがあります。


対策として月に1回程、印泥を練り混ぜましょう。表面が固まるのを防ぐとともに、油の分離も抑えられ、結果的に長持ちします。

お手入れの仕方は、印泥の状態によってそれぞれ方法が変わります。

【印泥が固まった場合】
表面のみ乾燥して固まった場合は、容器の底からヘラで印泥をすくい上げ、表面の固い部分と中の柔らかい部分を混ぜ合わせます。
表面だけでなく中まで固まっている場合は、まず印泥を温めてから練り混ぜるようにします。暖房器具の近くに容器を置いて温める、ドライヤーの温風を容器の底にあてて温める、などの方法があります。
印泥を温めると全体が柔らかくなっていくので、その後、しっかりヘラで練り混ぜましょう。

また、印泥専用の油(別売り)を印泥に垂らして混ぜ合わせるという方法もあります。印泥が固まっているとき、金属のヘラを少し温めてから使うと混ぜやすくなるので試してみてください。

【印泥の油分が分離した場合】
夏場の暑い時期になると、印泥の油分が分離しやすくなります。まずは、手ぬぐいやさらしなどで表面をやさしく叩いて、油分を取り除きましょう。手ぬぐいを印泥に被せて一晩おいておくのも効果的です。
油分を取り除いたら、冷蔵庫に印泥をしばらく入れて冷やします。ある程度冷えた後、全体をヘラで練り混ぜます。

もしも上記の方法で元に戻らなかったら、それは印泥の寿命かもしれません。買い替えも含めて検討した方がよさそうです。

保管を徹底することで、印泥はより長持ちします。
一般的に、印泥は「印合(いんごう)」と呼ばれる陶器製の容器に入っています。陶器には印泥に含まれる油分の蒸発を抑える効果があるからです。
その印合の保管におすすめなのが桐箱です。中の湿度を一定に保とうとする働きがあるため、印泥を長持ちさせるのに効果的です。
こうした保管方法に加え、「ホコリを入れない」「高温多湿の場所に置かない」を徹底すると、印泥のさらなる長期保存につながります。

印泥のおすすめは「光明」や「美麗」?最適な選び方とは

印泥は主に中国製や日本製の商品が販売されています。中国製は粘りがあり、日本製は固めでべたつきが少ない傾向があります。ちなみに中国製は「西冷印社」の印泥が有名です。

印泥は朱色だけではなく、さまざまな色があります。
一般的に知られているのが、「光明(こうみょう)」「美麗(びれい)」「箭鏃(せんぞく)」です。

・光明(こうみょう)…明るい色彩の朱色で、やさしい印象があります。
・美麗(びれい)…光明よりも濃く、赤色のような落ち着いた色合いです。
・箭鏃(せんぞく)…鮮やかな黄赤色。濃厚な質感があります。

どの印泥を使えばいいか迷ってしまいますが、選び方に正解はありません。色の好みで選ぶもよし、作品によって印泥を使い分けるもよし、自由に楽しみましょう。
例えば、やさしい印象を与える「光明」は、仮名や漢字の作品にぴったり。オールマイティに使える「箭鏃」は、書や絵など幅広く利用できます。このように、使う人の好みによって楽しみ方が広がるのも印泥の魅力と言えます。

印泥選びで気を付けたいのが、サイズ(容量)。「両装」という単位が用いられ、1両装は30gです。この両装が大きくなるほど容器(印合)の大きさも変わります。容器が小さ過ぎると、印泥に落款印がつけにくくなるので、押す印の大きさに合わせてサイズを選びましょう。

印泥は書画の作品に欠かせないアイテム

ここまで、印泥の基本的な知識や使い方について紹介しました。
朱肉とは一味違い、深い色を表現できるのが印泥の醍醐味です。使い込むほどに味わいが増すので、書画などの作品に押してみたいという方はぜひ試してみましょう。

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