サイン文化のアメリカの公証制度とは?

日本で新しい家などの不動産を購入する際は、本人確認書類や印鑑登録証明書(印鑑証明書)などが必要です。

一方、印鑑文化のないサイン(署名)文化のアメリカの場合、サインだけでは偽造の可能性を排除できないので、公証人による書類の公証が必要です。

こういった公証人は、もちろん日本にもいます。遺言を作成する際は、法律のプロである公証人に作ってもらうのが一般的です(「公正証書遺言」と呼びます)。プロが作るため書式不備による無効は基本的になく、極めて信頼性の高い遺言形式と言えます。

※他にも、自身で作成する「自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」の形式があります。

公証人がおこなうこれらの業務は、「公証制度」に基づいておこなわれます。業務の内容によっては、実印や印鑑登録証明書の用意が必要です。

このように日本の公証制度においては印鑑が不可欠です。

ではアメリカの公証制度はどういったものなのでしょうか? 冒頭に書いたようにアメリカと言えば印鑑文化のないサイン文化。具体的にどのように手続きをおこなっているのでしょう。

そこで、この記事はサイン文化であるアメリカの公証制度や公証人について解説します。記事の中では、最近広まりつつあるリモート公証についても紹介していますので、最後までご覧ください。

公証制度、日本とアメリカの違いは

まずは、日本とアメリカの公証制度の違いから見ていきましょう。

日本の公証制度について、法務省のホームページでは「国民の私的な法律紛争を未然に防ぎ、私的法律関係の明確化、安定化を図ることを目的として、証書の作成等の方法により一定の事項を公証人に証明させる制度」とあります。

ここで謳われているように、公証人がおこなう業務は、国民の権利義務に関係し、私的紛争の予防を主としています。

そのため、公証人は誰でもなれるわけではなく、原則30年以上の経験を持つ法律実務家で、公募に応じた者の中から、法務大臣が任命します。また、高度な法的知識や豊富な実務経験に加えて、職務の性質上、中立かつ公正であることが条件となるため、裁判官や検察官、法務省職員といった法律のプロが公証人を務めることが一般的です。

日本の公証人は国の公務を司っているため、国家賠償法などの対象となる、広い意味での公務員という立場にあります。なお日本公証人連合会によると、現在、日本の公証人は全国に約500名、公証人が執務する公証役場は約300箇所あります。また、どこの公証役場でも料金は一律です。

一方、アメリカの公証人は日本のような公務員ではなく、州のライセンスを受けた民間人です。州ごとに公証人が任命され、それぞれ規則が異なります。また、公証役場といった公的な施設はなく、各自で業務をおこなうスタイルです。なお料金は公証人によって異なります。

公証業務についても、日本とアメリカでは大きな違いがあります。

日本では、主に公正証書の作成、会社などの定款認証、宣誓供述書の作成の業務があります。一方、アメリカの場合、公正証書の作成は権限として認められておらず、文書の認証と宣誓供述書の作成のみを職務としています。

アメリカの公証人はサイン契約をどうやって認証する?

アメリカは日本と違って印鑑登録制度がないため、契約などをする際はすべてサインでおこないます。しかしそれだと、「本人のサインを真似したなりすましが発生するのでは?」と思うでしょう。

そこでアメリカでは、重要な契約書の手続きをおこなう場合、公証人による認証を申請し、契約の際、公証人が立ち会います。こうすることで「契約者本人が実際にサインした」、「間違いなく同意した上で署名した」ということを、公平な第三者の立場で確認できるわけです。ちなみに公証人による認証を受けるには、本人確認ができる書類(運転免許証など)を提示しなくてはいけません。

先ほど「アメリカでは州ごとに公証人が任命されている」と述べましたが、サイン証明に関する規則や様式はそれぞれの州法によって異なります。そのため、日本などアメリカ以外の国で、アメリカのサイン証明を提出する場合(不動産購入や遠隔投資など)は、提出先の求めに応じた内容が含まれているか、あらかじめ確認しておく必要があります。

アメリカで進むリモート公証とは

従来、公証業務は公証人と依頼者が対面でおこなうものとされてきました。しかし近年は対面でのやりとりの他、オンラインでのリモート公証が広まりつつあります。

中でもアメリカはリモート公証が急速に拡大している国の1つです。

もともとアメリカでは、2012年にバージニア州議会が承認したのを機に、各州でリモート公証が採択されてきました。しかしその一方で、デジタル化にすることで「詐欺やハッキングを招くのではないか」という意見もあり、全米に浸透するまでには至りませんでした。

それが新型コロナによって公証業務がストップしてしまうという事態に。そこで対策として「3密」を避けてサービスを提供できるよう、ビデオ会議形式のリモート公証が採り入れられるようになりました。

このように、アメリカで広まっているオンラインの公証手続きを「RON」(Remote Online Notarization)と呼びます。現在アメリカでは、過半数の州で公証人がRONを実施することが認められています。

日本人がアメリカのサイン公証を必要とする場合、日本国内のアメリカ大使館やアメリカ領事館で手続きをおこないますが、RONを利用すればアメリカ大使館などに行かずとも、自宅のオンラインで公証人と面談、署名をおこない、公証手続きを完了させることができます。

公証人が立ち会って認証する、アメリカのスタイル

ここまでアメリカの公証制度や、最近普及が進んでいるリモート公証について紹介しました。

サイン文化のアメリカでは、公証人が公正証書を作成することを権限として認めていません。その代わり、契約書の手続きの場に公証人が立ち会い、公正な立場で文書を認証することを認めています。また、従来の対面でのやりとりの他、ビデオ会議形式のリモート公証を採用するなど、公証業務が柔軟におこなわれています。

日本ではアメリカほどオンライン公証が進んでいませんが、2022年7月に法務省が公正証書の作成を全面的にオンライン化する方針を固めました。今後の予定として、2023年の通常国会に「公証人法改正案」を提出し、2025年度前半までにオンライン公証制度の運用開始を目指しているとしています。

今後の日本の動きにも注目しておきましょう。