官公庁のペーパーレス化で印鑑はどうなる? 

デジタル化が進んでいる世の中ですが、役所をはじめとする官公庁では、その一環としてペーパーレスに向けた取り組みがおこなわれています。 

 ペーパーレスとは書類などの紙を使わなくするということです。それに伴い印鑑を押す機会が減り、印鑑そのものも無くなっていくのでは……と考えられますが、実態はどうなのでしょうか? 

そこでこの記事では、実際におこなわれたアンケート調査の結果を元に、官公庁のペーパーレス化の動きと、それに伴う印鑑の現状について紹介します。 

国民の利便性を高めて、行政コストを減らす 

この官公庁のペーパーレス化は日本政府が主導で進めているもので、行政手続きをインターネットなどのデジタルの仕組みに変えて、今より簡単にスピーディーにおこなうという取り組みです。それにより国民生活がより便利になり、同時に行政コストの負担が軽くなる、ことを目指しています。 

 具体的には、法人設立や自動車保有、引っ越しなどの手続きのオンライン化やワンストップサービスを実現して、行政手続きを早くて簡単なものにすることを目標としています。また、マイナンバーなどを活用することで戸籍や住民情報、税、年金などの行政情報を連携させて政府が一元管理する狙いもあります。 

 それを実現するために様々な具体的施策がありますが、それらをまとめて言えば「ネットを使ってペーパーレスにする」ということ。紙の書類をやめてネットでやり取りするというわけですが、そうなれば、ネットでやり取りが難しい印鑑が障壁になります。そこで政府は、現行で押印が求められている手続きを見直して、止められるものは法改正で無くしてしまおう、という計画を進めています。 

アンケート調査で分かった、「ペーパーレス未対応が半数」 

官公庁のペーパーレス化は2018年頃から取り組みが進められていますが、実際の現場ではどうなっているのでしょうか? 

 株式会社エイトレッド(本社:東京都渋谷区)は官公庁職員320名を対象に「官公庁のペーパーレス・脱ハンコ」の実態調査を実施しました。 

※調査期間は2022年2月3日~同年2月5日、インターネットによる調査。 

 ここで興味深いアンケート調査を紹介しましょう。 

「Q.あなたは、お勤め先で『ペーパーレス化』や『脱ハンコ』が進んでいるように思いますか。」と官公庁職員に尋ねたところ、「ややそう思う」が38.4%、「かなりそう思う」が9.7%と回答。官公庁における「ペーパーレス化」や「脱ハンコ」の推進は、未だ半数以下の48.1%となりました。 

 ややそう思う」「かなりそう思う」と答えた方に、「Q.『ペーパーレス化』や『脱ハンコ』の推進によって、メリットを実感していますか。」と聞くと、「非常に実感している」が9.8%、「やや実感している」が47.4%と回答。実感しているメリットについては、「業務の効率化」(64.8%)、「コストの削減」(52.3%)、「情報共有の円滑化」(30.7%)と回答がありました。 

 「全くそう思わない」「あまりそう思わない」と回答した方に、「Q.『ペーパーレス化』や『脱ハンコ』の推進が進んでいないと感じる理由を聞くと、 

・未だに紙で印鑑を集めて回らないといけない。 

・電子で回しても紙に印刷して説明が必要。 

・職員の意識改革が進んでいない。 

・システムで起案したものをプリントアウトして、回覧印や決裁印をとる方法がまだまだ続いている。 

・システムが十分に利用しやすいものとなっていないため、ペーパーレスになっていない場面もある。 

などの回答がありました。 

また、「ペーパーレス化が難しいと思う業務や申請書はあるか」という質問については、 

・個人情報が含まれる書類は、電子化によって情報漏洩などの心配がある。 

・権利関係など、公印が必要な文書。 

・契約関係の書類や、付属書類自体にも押印が必要なものがある。 

・補助金申請など金銭が絡むもの。 

 などと回答がありました。 

株式会社エイトレッドは実態調査について、「法的に取り扱いが難しい書類が多いことや、押印が定められている業務など『ペーパーレス化・脱ハンコ』を官公庁が推進するためには、根本的なルール改正が必要な側面も色濃くある」と総括しています。 

ペーパーレスが進んでも、印鑑の有用性は高い 

このアンケート調査から、半数以下の官公庁がペーパーレスに対応していないことが分かりました。システム整備などの課題により、すべての官公庁がペーパーレス化するには、しばらく時間がかかるでしょう。 

今後、従来の紙文書をやめてネットでやり取りするスタイルが広がれば、押印の機会は以前と比べて減少するかもしれません。例えば役所内の回覧に押す認印やネーム印など。 

 しかし、だからといって官公庁で印鑑が無くなるということはありません。法的に取り扱いが難しい書類や、押印が定められている業務において印鑑は必要です。アンケートにもありましたが、個人情報保護の観点からも印鑑の有用性は高いです。ネット上で管理するのではなく、物体として押印した書類を保管する方が安心できますよね。 

また押印は、請求書に捺す角印や宅配の受け取りなど、民間の文化や商習慣としてもしっかり根付いています。デジタル時代の今でも、印鑑のニーズは高いと言えるでしょう。